J-PlatPatを用いた近傍検索の活用方法
2018年3月、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)のデータベースが大幅に充実し、検索機能が特許審査システムと共通化され、新たな検索機能が利用可能になりました1)。
主な追加・改善機能は以下の通りです。
・機能1.特許分類とキーワードを掛け合わせた検索
・機能2.近傍検索
・機能3.外国特許公報(米国・欧州・国際出願)の英文テキスト検索
<改善機能>
・機能4.国内の公開特許公報等のテキスト検索が可能な期間の拡大
・機能5.検索結果表示件数の上限拡大
ここでは、国内・外国のテキスト検索機能の拡充について簡単に説明をし、効率よく所望の記載がある文献を検索することが可能な近傍検索の有効活用法について紹介させて頂きます。
<テキスト検索機能の拡充>
以下のように国内・外国のテキスト検索機能が拡充されたため2)、国内では約50年前、外国(US,EP,WO)では約40年前と、かなり古い文献についても、キーワードを用いて検索(近傍検索)することが可能となりました。
これまでは平成5年(1993年)以降に電子化された国内公報(約1300万件)の検索が可能でしたが、昭和46年(1971年)以降に発行された電子化前の公報(約1000万件)が、テキストで検索できるようになりました。
・機能3.:外国特許公報(米国・欧州・国際出願)の英文テキスト検索
外国特許公報を英文テキストにより検索できるようになりました。検索可能な文献の蓄積範囲は以下のとおりです。
・米国(US):1978年12月発行分~
・欧州(EP):1978年12月発行分~
・国際出願(WO):1978年10月発行分~
<近傍検索>
近傍検索とは、複数(通常は、2つまたは3つ)のキーワードの間隔を指定して検索をすることであり、近接検索とも呼ばれます。市販の特許検索データベースでは一般的に実装されている機能ですが、J-PlatPatでも利用可能となりました。
・J-PlatPatにおける近傍検索について、マニュアルを引用して説明をします3)
上記のように、J-PlatPatにおける近傍演算子としては、語順指定の有無に応じて「C」と「N」の2種類があります。
・語順指定あり「C」:キーワードA,10C,キーワードB
・語順指定なし「N」:キーワードA,10N,キーワードB
なお、キーワードAとキーワードBの間隔は1~99文字まで指定できます。
・近傍検索を用いると、所望の記載がある文献を検索することが可能となります。例えば、食品分野の先行技術調査において、こんにゃく入りゼリーの弾性力に関する記載がある文献を探す際の例を、経済産業省の資料を引用して示します2)。
以下の例では、「弾力性」と「こんにゃく入りゼリー」とが10文字以内に近接して記載されている特許文献を、検索式「弾力性,10N,こんにゃく入りゼリー/TX」で検索しています。
以下に、J-PlatPatにおける近傍検索の入力例を示します4)。
(例)「発明・考案の名称/タイトル」のキーワードがフード、ダクトでキーワード間が5文字以内の語順ありを指定して検索する場合
[フード,5C,ダクト/TI]
・3単語近傍検索(前半優先)
(例)「発明・考案の名称/タイトル」のキーワードがフード、ダクトでキーワード間が5文字以内の語順ありを優先検索し、検索該当箇所とキーワードがカバーでキーワード間が3文字以内の語順なしを指定して検索する場合
[{フード,5C,ダクト},3N,カバー/TI]
※3単語近傍検索(前半優先)の"{}"は省略可能。
・3単語近傍検索(後半優先)
(例)「発明・考案の名称/タイトル」のキーワードがダクト、カバーでキーワード間が3文字以内の語順なしを優先検索し、キーワードがフードと検索該当箇所でキーワード間が5文字以内の語順ありを指定して検索する場合
[フード,5C,{ダクト,3N,カバー}/TI]
・3単語近傍検索(省略形式)
(例)「発明・考案の名称/タイトル」のキーワードがフード、ダクト、カバーでキーワード間が3文字以内の語順なしを指定して検索する場合
[{フード,ダクト,カバー},3N/TI]
※3単語近傍検索(省略形式)の語順は、N, nのみ入力可能。
※語順の指定は、語順あり=C, c、語順なし=N, nが入力可能
※間隔の数字はテキスト検索対象で和文を選択した場合文字数、英文を選択した場合単語数
・具体的には、以下のように、J-PlatPatの特許・実用新案検索において、「論理式入力」をクリックし、論理式の欄に式を入力します。
・また、「選択入力」をクリックし、検索項目を指定して、検索キーワードの欄に式を入力しても同様の検索を行うことが可能です(検索項目を指定する「/TI」は除いて入力)。
<近傍検索を活用した特許調査の例>
次に、近傍検索を活用した特許調査が有効な場合を参考例として紹介します。
近傍検索の活用場面としては、特許分類(FI、Fターム、IPC、CPC)が未整備である場合や、特許分類が有効に機能していない分野における検索を行う場合、テキストで特定の記載のある文献を探したい場合などが想定されます。
例えば、以下のような記載がある文献を探す場合を想定します。
A部材とB部材が接続
A部材とB部材が連結
A部材とB部材とが接続
A部材とB部材とが連結
A部材と、B部材と、が接続
A部材と、B部材と、が連結
A部材とB部材が接着剤で接続
A部材、B部材、(連結+接続)のAND演算で掛け合わせた検索式を作成した場合、文献のどこかに、これら3つのキーワードがあるものがヒットするため、一般的には、適切な文献を絞り込むことは不可能です。
したがって、文章を想定して以下のような検索式を作成し、近傍検索を行います。このような式であれば、3つのキーワードが互いに所定の文字数で近接して記載されている文献を適切に絞り込むことが可能となります。
例1:A部材,10C,B部材,10C,(連結+接続)
例2:{A部材, B部材,(連結+接続)},10N
ビジネスモデル特許、コンピュータソフトウエア関連発明など、特許分類による検索が難しい分野では、近傍検索を行うことが非常に有効です。
例えば、データの処理手順や、データの処理方法に関する記載がある文献を、以下のように調査することが可能です。
・Cステップを行った後に、Dステップを行う
例3:Cステップ,20C,(後に+後で+次に),20C,Dステップ
・データEを、基準FでG処理する
例4:データE,20C,基準F, 20C,G処理
<まとめ>
特許文献の記載を想定して近傍演算を行うことで、ピンポイントで所望の記載がある文献を抽出することが容易になりました。国内・外国のテキスト検索機能が拡充されており、比較的古い文献においても近傍検索を行うことができるため、近傍検索を活用することで特許調査を効率的に行うことが可能です。このとき、特許分類とキーワードを掛け合わせた検索(機能1)と組み合わせることで、調査の効率をより一層向上させることもできます。
市販データベースは勿論、WIPO Patentscope5)、Espacenet6)、Google7)やGoogle Patents8)でも近傍検索を行うことが可能ですので、活用してみてはいかがでしょうか。
特許調査について、ご相談等ございましたらお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いです。
弁理士 角渕 由英
<参考文献等>
1)特許審査官が用いる検索機能が利用可能になります~特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の新機能について~
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180309003/20180309003.html
2)【別紙】主な追加・改善機能(PDF形式:183KB)PDFファイル
http://www.meti.go.jp/press/2017/03/20180309003/20180309003-1.pdf
3)J-PlatPatマニュアル(2018.07版)「4章 特許・実用新案」、54頁
http://www.inpit.go.jp/content/100863827.pdf
4)検索方式の入力例
https://www10.j-platpat.inpit.go.jp/pop/HELP/japanese/tjkt/ronri_search_screen.html
5)PATENTSCOPEの使い方(22頁)
https://www.wipo.int/export/sites/www/about-wipo/ja/offices/japan/pdf/patentscopex.pdf
6)Espacenet, Smart search - operators
https://worldwide.espacenet.com/help?locale=en_EP&method=handleHelpTopic&topic=operators
7)Googleにおける近傍検索について
例:キーワードA around(X) キーワードB
8)Google Patentsにおける近傍検索について
7 tips to unlock full potential of Google Patent Search
https://www.greyb.com/google-patent-search-tips/
例:(safety ADJ/5 belt) NEAR/10 (baby OR child)SAME vehicle
ADJ/x :語順指定あり、数字xは語間のワード数
NEAR/x :語順無指定なし
SAME :語順を指定せず、語間が200語以内
WITH :語間が20語以内