特許調査のセオリー(3) 漏れなく・効率的な検索式 (2021.6.3)
前回は、再現率と適合率について説明をしました。
それでは、再現率と適合率の両方を同時に向上させるには、どうすればよいでしょうか。広い範囲をカバーする検索式を作成し、闇雲にスクリーニングを行うことはノイズが増加して適合率が下がってしまうため非効率的です。
再現率と適合率の両方を同時に向上させたいときは、以下の図のように検索式のパターンを増やす(検索式②+④とする)、つまり、調査対象となる発明を多面的に把握し、複数の小集合を作成することで、再現率と適合率の両方が高い、効率的かつ漏れのない検索式を作成することが可能となります。
確率論で論じることは、正確ではないですが、500件の単観点の検索式1つよりも、100件の異なる観点の検索式5つの方が、総件数は同じであるが必要とする文献がヒットする「確率」が高くなるでしょう。
このとき、効率的にノイズや検索漏れを低減するために検索式のパターンを多くするとともに、検索漏れを防ぐために複数の特許分類を活用して多観点から検索式を作成し、特許分類とキーワードの特徴を考慮して併用します(特許分類付与のブレ・漏れ対策)とよいでしょう。
1つ1つの小集合も、単純な円形ではなく楕円形となるように軸(観点の方向性)を有するイメージで作成して、適合文献を効果的にヒットさせると好適です。具体的には、円形の集合である上位のIPCやFIに、特定の観点のFタームやキーワードを掛け合わせて楕円形の集合を作成するイメージとなります。1つ1つの小集合の作成と組み合わせには、適切な特許分類とキーワードをうまく組み合わせるセンス、経験と勘が必要となります。そして、楕円形の軸を変えて(観点の方向性を替えて)、複数の楕円形の集合を組み合わせることで、再現率と適合率の両方をバランスよく向上させることができます。
出願権利化等の弁理士業務に加え、法的知見を活かして知財に関する調査も多く扱っている経験を踏まえて執筆した著書、「侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」(一般財団法人経済産業調査会)が発行されていますので、ご参考にして頂ければ幸いです。 詳細はこちらからご確認ください。 |
弁理士 角渕由英