弁理士と特許調査(1)特許調査の種類 (2021.8.4)

今回からの連載では、弁理士と特許調査について述べ、弁理士が特許調査業務を行うメリットについて説明します。

企業の事業活動において、特許調査は必要不可欠です。
出願権利化などの弁理士業務を行っていると、特許調査の相談を受けることがよくあります。
以下の図に、企業の事業活動と特許調査についてまとめました。

<技術動向調査>
研究開発戦略や研究テーマの決定に際し、特定分野の動向を俯瞰的に分析する調査です。
技術動向調査は、資料収集調査、技術収集調査とも呼ばれ、市場調査の段階や新規企画立案に際して、これから行おうとしている研究開発に関連する従来技術が無いかを俯瞰的に調べます。
調査対象は、基本的には公開系公報(公開公報、公表公報、国際公開)です。
パテントマップを作成するなどして、どの観点で先行する出願がなされているかを知ることで、重複する研究を回避したり、自社の研究の方向性を定めたりすることができます。

<先行技術調査>
特許出願前の段階で、既に類似した発明が出願されていないかを確認するための調査です。
先行技術調査は、出願前調査とも呼ばれ、これから出願する発明の内容が、他者によって出願されて公知になっていないかを調べます。
調査対象は、主に公開系公報(公開公報、公表公報、国際公開)となります。
発明の着想段階から先行技術調査を行うことで、権利化される見込みがない出願を未然に防止するだけでなく、先行技術との差異を明確にして戦略的かつ効果的に特許出願を行うことができます。

<侵害予防調査>
新製品を市場に投入する際に、第三者の特許権等を侵害しないか確認するための調査です。
侵害予防調査はFTO(Freedom to operate)調査、侵害防止調査、クリアランス調査、抵触調査、侵害調査や権利調査とも呼ばれます。登録系公報(特許掲載公報)、出願中・審査中の公開系公報が対象となり、スクリーニング対象は、基本的には権利範囲(発明の技術的範囲)を定める特許請求の範囲となります。
侵害予防調査では、技術の内容と、その流れを正確に理解した上で、対象製品等(「イ号」)が備える数多くの調査観点を的確に把握して、何を調査対象とし、何を調査対象としないかを決めることが大切です。

<無効資料調査>
自社製品が他社の特許権等に抵触する場合や、自社の事業活動の障害となり得る他社の特許権を無効化するための先行資料を探すための調査です。
無効資料調査は、無効調査、公知例調査とも呼ばれ、対象とする発明が、特許公報や論文などの公知資料(刊行物)に記載されているかを調べます。
無効資料調査では、スクリーニング対象は特許請求の範囲に限定されるものではなく、明細書や図面を含む公報全体がスクリーニングの対象となります。化学・バイオ系など実験科学の分野では、技術的思想が具現化されている実施例が特に重要です。進歩性の観点から、論理付けを行う際に有効となる記載、本願発明の課題にも着目をすることが肝心です。

出願権利化等の弁理士業務に加え、法的知見を活かして知財に関する調査も多く扱っている経験を踏まえて執筆した著書、「侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」(一般財団法人経済産業調査会)が発行されていますので、ご参考にして頂ければ幸いです。

詳細はこちらからご確認ください。
「財団法人経済産業調査会 出版案内」(https://books.chosakai.or.jp/books/catalog/30596.html

弁理士 角渕由英